―貴腐荘・廊下〜大部屋―
[よいしょ、と持ち上げたキャリーケース。
年季の入った廊下であるが引きずったりはしない。
日本へ越してきた四年半ほど前当時の少年ならば、躊躇いなくそのまま引いていただろうけれど。
ぺたぺたとスリッパの音をさせながら、やがて行き着いたのは宴会場と化した大部屋の前]
えっと。
ここだよなあ……?
[雑然と脱がれた何足ものスリッパ。それ以上に扉越しの喧騒が中にいる人数のほどを伝えてきていた。キャリーの把手を片手に持ち直してふらり、よろけつつ。扉を開けてみる]
こんにちはー!
皆さん、お久しぶりー。
[室内へと声を掛ければひとまず荷物を置こうかと見回して。
壁際の一角にケースを横たえるだろう。
解錠すれば取り出されるは何本もの洋酒、銘酒、リキュールの数々。 さほど長くもない滞在にそぐわぬ大仰なキャリーケースの容積は、その大半が酒類で占められていたのであった]
(115) 2015/07/03(Fri) 01時頃