[そんなたとえをしたところで、自分には全く関係ないと考えていた彼だが、それは目の前の彼>>90の言葉によってふと引き戻される。]
触れることができたらいい、なんて……、
そんなこと、言わないでよ…。
[その言葉は、今の自分にとってはまるで引き金のよう。
彼に触れることができたらなんて、そんな嘘みたいなこと。
―――あるはずが、ない。
ああ、彼の言葉ひとつひとつが、心の柔らかいところをゆっくりと抉り取っていってしまう。
そんなこと聞いてしまったら、彼の手を名残惜しいだとか、彼の全てが愛おしいだとか、そんなことも全て、気のせいなんかではないことに気付いてしまうから。
感情が高まってしまって、目が熱くなる。まだ涙は零れていないけれど、それは時間の問題だ。
彼と目を逸らしたくて下を向けば、重力に従って涙が落ちてしまいそうだが、真っ直ぐを見つめては、彼と目が合ってしまう。
考えた末に下を向いたが、案の定涙はこの星の力に従って、地面へ数粒零れてしまった。
彼には見えていないといいのだけれど、声も途切れ途切れで震えていて、もしかしたら気付いているのかもしれない。]
(112) 2015/04/11(Sat) 05時頃