[男の声に従うように、自分の右手がゆっくりと下がっていく。
左右に手は動くけれど、もう一度指を指そうとしても、全くその手は動かない。…強制力のある命令みたいなものか。]
………へえ。すごいな。ほんとに色んな能力にできるのか。
[ごくり、と唾を飲み込んだ後…口をついて出たのは驚きの言葉。
櫛屋の言葉には、感情を偽っているようには感じられたけれど、はっきりとした敵意のようなものは、今はまだ感じられなかったから。
不愉快、というのには、謝ることもないだろうと無視をした。相手もずっとポケットに手を突っ込んでいる…お互いさまだ。もしかしたらお互いまだ探り探りなのだろうか。それなら申し訳ないことをしたなと、少し思った。]
そうだな。もし戦いたいなら、この子がいないときにでもしてくれ。
戦うのは嫌だけど、無関係な人間を巻き込むのはそれ以上に嫌だからな。
[すれ違いざまにそう言うと、櫛屋の背が小さくなるまでは見送るようにその場に立っていただろう。
少し離れたところでもう指は動くようになっていたけれど、敵意のない櫛屋に能力を使おうという気にはならなかった。]
(112) 2014/12/07(Sun) 22時頃