[けれど、それを口にした途端、兄の顔色が変わった。
「そんな風に思ってたのか……?」
ショックを受けたような、怒りをこらえるような、震えの混じった声で。ゆらり、立ち上がって慶太の方へ近付いてくる。
常と違う様子の兄を恐ろしく感じて、少し後ずさる。けれど無情にも、背中はソファーに当たった。
「違うよ」兄は言う。「慶太が大事だからに、決まってるだろ?」
そっと肩に手を置かれ、ぐい、と床に押し倒された。]
……にい、ちゃん?
[怒ったみたいな、悲しむみたいな。そんな顔が近付いて来て、首筋にぬるりと温かいものが触れた。思わず硬直した身体を無遠慮にまさぐる、大人の男の手。
「俺はこんなに、慶太のことを思ってるのに」
気持ち悪い、と、思った。抵抗したかったけれど、未発達な身体で大の大人に叶うはずはなく。
恐ろしさと悔しさで目に涙が滲んだ。その雫が頬を伝った時、兄の手が止まる。我に返ったようだった。
「っ……ごめん、慶太!」
突如解放された身体を、ゆるりと起こす。そんなつもりじゃなかった、とか、でも俺の気持ちをわかってほしかった、とか。勝手なことを言う兄の言葉には耳を傾けず、ふらっと立ち上がった。]
(111) 2016/09/19(Mon) 14時半頃