[一般人が足を踏み入れる機会なぞ早々ない事務所は、ごくありふれた内装であれ新鮮だった。換気の足りない生温い空気に出迎えを受けても、表情は崩すことなく。
ただ、半歩後ろから歩幅に合わせて揺れる毛先だとか、頚筋に浮かぶ珠のような汗に視線が向く。
同じく汗をかいたとて、此方は滲む程度。]
はい、失礼します
……あの、セス様。良かったらこちらを
[何かにそわつく心地は、手背が首筋を拭う仕草を前に限界を迎えた。>>105
ソファへと腰を沈める前に、懐から皺ひとつない薄青のハンカチを差し出す。受け取るも拒むも貴方次第であるが、惑うようなら常に二枚持ち歩いているから、と添えたかと。
その後は、大人しく。年代を感じるエアコンが、機械音と共に涼風を運んでくるのを待つだけ。]*
(109) 2019/07/28(Sun) 16時半頃