─5月5日 深夜2時 薬屋「三元道士」─
>>69
[果たして、扉は開いた。──手応えなく開いた扉に、しかしなぜか瞬間己の手が止まり。力が篭った自身の指を、茫と眺めた双眸を瞬かせて力を抜くと、そのままゆっくりと、夜闇よりも薄暗い闇が満たした店内へと入り込んだ。
先ず目についたのは、蝋燭の揺れる微かな光。手探りで進むしかない闇の中、その小さな光は朧ながらも確かな道標のように、己の視線を、彼の闇を切り取るような姿へ導いた。思わず、唇が小さな音のない動きを乗せて、…彼の言葉に、知らず常よりも硬さを滲ませ、色を白くさせていた面を小さく緩めた。顔色までは、恐らく己が紛れた薄闇の中、すぐには彼には判別できなかっただろうが]
……露蝶。
[咽喉で掠れた声。…暫く振りで、声を出したような気がした。唾を飲み、乾いて張り付くような咽喉を僅かでも潤し。口端には、常と同じ──どこか皮肉気でもある笑みを刻んで見せた]
面、見に来てやった…だけだったんだがな。もうおっ死んでんじゃねーかと思ってよ。
──生きてた、みてェだな。…。…無用心だぜ、露蝶さんよ。
[囁くように足した声。己は薄闇の中、彼から距離を保った位置から動かず]
(107) 2013/07/29(Mon) 00時頃