― 喫茶『アドウィナ』 ―
[カフェというものには随分慣れた。
本来なら座敷に足を崩して、団子をほおばりながらの生活が理想だ。木製のチェアに座ってテーブルで羽ペンを弄るのは、着物のままだと居心地が悪い。
それでも、洋装に身を包む気は全く起こらない。足元を晒すのはどうも女の小には合わないのだ。
カラリと下駄を鳴らし、適当なオープンカフェを見つけては、外の客を回る給仕に声をかける。
店前看板のメニューを軽く覗いてから、にっこりと笑う。]
ちょいと。ペイストリーと、珈琲。ひとつ。
それから。…この辺りで一番大きな、
…『こども』の観劇場をお教えください。
[注文がてらに、午後からの現場探し。
本を綴る取材地探しのために、
大都市の名物の『ショー』を行う会場を探していた。
給仕はお待ちください、という言葉と共に一度店の中に消える。女は、適当なパラソルつきのテーブルに腰をおろして、鞄を開けた。]
(105) 2015/09/13(Sun) 21時頃