[最終的に判明したのは、呆れるほどシンプルで驚くべき事実だった。
青年はその体内に、多量の薬物を溜め込んだ点滴タンクを埋め込んでいたのだ。
医療用に似たような発想はあるがまだ実用化に至ってはおらず、装置の作成にも施術にもかなりの技術が必要と思われる。何故それをスラムの売人ごときが所持しているのか。資金はどこから出ているのか。
厳しい尋問は、しかし効果をさっぱりあげなかった。
『あにきがやってくれたんだ、すごくかっこいい人! おひげで茶色でふわふわしてて、背中に届くショートヘア!』
青年の自白は要領を得ないものであったし、薬のせいか恫喝も痛みも全く通用しなかった。聞き込みによる捜査もうまくはいかず、行き詰まりを感じ始めたところ、青年の噂が"上"に届く。
面白い実験体。最終的に下された判断はそんなもの。
かくして戸籍のない青年は、投げやりな裁判の後闇から闇へ。その洞へと運ばれることになる。]
(104) 2012/04/07(Sat) 23時頃