[ けれど、彼のような人が一人でいることなんて、ありえなかったのです。そして、私が彼との夢を一瞬でも見てしまったのを諌めるように、彼の隣に愛らしい少女が走り寄ります。
栗色の、柔らかいウェーブのついた髪の毛が、ふわりと揺れます。華奢な手と、きれいに整えられた桜色の爪で甘えるように彼の腕に絡みつくと、そのまま磁石のようにぴったりとくっつきました。彼もそれを気にする風でもなく、いえ、むしろ彼からも彼女に寄り添うように、二人は自然と体を擦り合わせます。
私は自分が声を出さないように、自分の喉を片手で押えました。窒息してしまってもいい、今この場で、叫んでしまうくらいなら。そう思いながら、必死に声を堪えたのです。
けれど、なぜでしょうか。再び偶然が起こってしまって、彼が振り向いて私に気付いたのです。別に私が居たから振り返ったとかではなく、偶然だとは思います。けれど、彼は私を見つけてしまいました。]
(103) 2015/10/29(Thu) 04時頃