[ほどなくして、我々は空いたベンチを見つけて腰掛けた。
どこかから、歌が聞こえる。女の声だ。我輩は音楽には明るくないが、アカペラのメゾ・ソプラノといったところだろうか。しかし、この地区にアンビエント・サウンドの放送はなされていないはずだ。音楽科の学生の練習を兼ねたパフォーマンス演奏をよく見かけるから、その類のものかもしれない。ついこの間は、練習室の予約を取り損ねた学生が事もあろうにアナログ・トロンボーンを持ち込んで、さすがに警備員に連行される場面にも遭遇した。ここで歓迎されるのは、歌か音量調整のきく電子バイオリンくらいであろう。]
トリも一緒に歌って来れば?
[音楽に合わせて揺れていると、サイノがサンドイッチを頬張りながら呟いた。
"ふん、ヒトふぜいが、我輩の美声と比べられては可哀想だろう。"答えたが、まあこれはだいたい嘘だ。美声は本当であるが、淑女の歌声を邪魔するほど、我輩は野暮ではない。]
(100) 2015/03/06(Fri) 23時半頃