[閉店の作業を終えれば、ベッドに潜り込み。
先のヴェスとのやりとりのおかげで、思い出すのはここに来る、前のこと。
男は、整った顔立ちはしているが、独特の垂れ目と目つきの悪さから、見た目はそれこそ薬の密売人のようにも見える。しかし、こう見えて島に来る前は警察の特殊捜査課で働いていた。
妙な人間ばかりが集められたその課の存在は、署の中でも一部の者しか知らない。
そして特殊、と言っても、何も緻密な捜査をするわけではない。
男の仕事は、簡単だった。
容疑者の絞込みの難しい、無関係の人を狙った連続殺人や、大量殺人。
複数まで絞り込めたその容疑者と、取調室で、あるいは聞き込みで、話すだけだ。
その間、2分ほど、男の独特の緋い双眸で、彼らの眸をじぃっと見詰める。
そうすると、重なるようにふっと影が浮かびあがり、影の姿形で彼らの奥底に宿る正体を知ることができた。
――人の理性を忘れた、獣か否か。]
(98) 2013/09/03(Tue) 21時頃