[ 最初はたぶん、虚の天井に溜まっていた。甘酸っぱい匂いがすることに気づいたのはいつからだろう。硬い岩肌に触れたのはいつだっただろう。小石が削れて落ちる音を聞いたのは、光が色を持つと知ったのは、口の奥を震わせられるようになったのは、 ――きっと、それが必要だったからだ。 それが生存に適した造形だったからだ。だって、地に降りることのできない足は細く、小さく。片方に至っては、未だ気体の性質が強いのだから。 それは己にとってあくまで成長であり、変化ではない。 故に、最初から己は己であり、時を経て己になった。 けれど、それはそういうものだ。当たり前のことだ。 種族の差故の常識が、答えを形作れないでいる。]
(96) 2020/08/26(Wed) 01時頃