― 洗面所付近>>89 ―
[そうだ! 風邪! そう言っておけば良かった!
……なんて今更気づかされても、ここまで挙動不審をさらした今ではもう遅い気もしてしまった。いややはり、このまま風邪ということにして熱でも測られようか――。
想像する、重なる額――高鳴る鼓動が痛い。
結局、実際に額が重なることは、この場では無かったのだけれど]
え、ちょっ、と や……
[「変だ」と、「おいで」と言われて、腕を引かれて――。
「やめて」と紡ぎかけた唇を、はっと閉じた。
変に振り払うならそれこそおかしい態度だろうと、私は漸く少しだけ落ち着いて考えたから。]
……うん。
ごめん、なんか、心配かけて……。
[掴まれる腕が受ける軽い痛みは、この時の私には、熱さにも似て感じられた。
まるで本物の風邪人のように力ない足取りで、三船さんに連れられるがままにされた。]
(94) 2017/01/31(Tue) 22時半頃