―5月5日午後11時、裏路地―
[あの後、結局どうにもならなくて蹲ると機動隊員の人が声をかけてきた。威圧感にビクリとする。しかしフードをはずし見上げれば怪しい者ではないと思ってくれたのか、次には優しくどうしたのかと聞かれた。それに本当のこと言うのは憚られて「投票するのが怖くて…」とだけ言うと、今日はもう投票しなくても良いこと、無理をせず帰りなさいという言葉とともに立たしてくれた。その時に一緒に渡された水が入ったペットボトル。それを受け取りながら『この人達がラルフさんを処刑するのだ』と思うと、折角の善意なのに頷いて立ち去ることしか出来なかった。]
私、こんなに弱かったっけ…。
[そうして一度店に戻り、荷物を持って自宅に帰る途中。遠回りをしたくなり、危険と分かりつつもいつもと違う道を行けば目の端に映る見知ったような姿。しかし、様子が以前と違う気がする。]
クー?
[小さく小さく呼んだその声、その声は彼女に届いただろうか…。]
(93) 2013/07/28(Sun) 22時頃