[ここ、安日荘は、この国の古いものが殊更に好きな自分が好き好んで借りたアパートだ。……いやもちろん、家賃の安さも魅力的だが。
家族というものに飢えていた自分にとって、人の気配が感じられるこのアパートが、居心地が良かった。だから6年間も住んでいる。
この国の文化に興味がある……などと言って外国人を気取るには、少々この国に長く住みすぎて、もはや母国語の方がカタコトで。
そのように振る舞うのは、閉鎖的なこの国に受け入れてもらうための、無意識の演技なのかも知れなかったが。
それでも。好きな気持ちは偽りではないし、今は気分よく過ごせているのだから、
今しばらくあの古書店とこの安日荘に甘えようと思うのだった。
……まあしかし、女性が一人もいないのは些か寂しいものがあるが。
高校までは共学通いだったものだから、彼女なんてものも何人かはいたのだ。一応。今は昔の話だが**]
(92) 2018/12/16(Sun) 15時半頃