― キルロイの部屋前 ―
[ヘクターを操り人形にしているのは、直円の力では無い。
故に魔力から追うことは出来ず、足で探すことになる。
そこかしこから聞こえてくる水音や嬌声の中にあって、平然と辺りを歩く己はやはり異質だ。とはいえ、この淫気に抗うことが出来る対魔忍は数少なく、見つかる可能性は然程高くないと予想した。
先程より、淫気が濃くなっている理由は、声ならぬ囁きから予測できる。
魔に抗う意思のある者は転送できない。
ならば、ラルフにはもっと、思い知ってもらう必要がある。
今の彼自身の状態を。そして、最早己に阿る以外の選択肢はないということを。故に今はまだ、手を伸ばすことはしない。]
…………ヘクター?
[そうして辿り着いた、キルロイの部屋の前。
その背中を見つけて声を掛けた。肩越しに見えるのは、キルロイだ。]
……何を?
[問い掛けるまでもないことを、敢えて問う。
他の者にとっては、己はまだ、組織の研究者なのだから。]
(91) 2016/06/11(Sat) 22時頃