―夕刻・大衆食堂『森の真珠』外―
(大陸に渡ってから、比較的冷静な人間になった方だと思っていた。何百、何千という被験者に対する度重なる実験の後も笑顔を張り付けてケアに向かっていたから。―カリュクスの場合は少し違ったけれど―それでも、思っていた以上に未だ自分の心は落ち着ききれていないらしい。リッキィをオーレリアと共に部屋へ運んだ後、最初は歩く速度だった足が自然と外に向かって走り出していたから。荷物の中から銀色のケースを取り出す。そして、叫ぶ)
イアン!状況は、その"人"はどうなってる!
(うろうろと視線をやる。ふと少し離れたガレージに電気が見えた。恐らく彼が一目に入らないよう処置してくれたのだろう。今の内に入ればイアンと顔を合わせる事になるだろうか。雨に濡れて張り付くシャツより、今はどんな事よりも、遺体の確認が先だった。噎せ返る血の匂いに軽く咽る。致命傷となった部分は見る気も失せるような形状になっているだろう。だが、ある程度調べた事だ。分かってしまう事は、ある。)
――……間違いない。獣害だ。それも、『人狼』の。
(91) 2017/08/14(Mon) 10時半頃