『あのひと……わたくしの夫もね、本当はもう少し
貴女とお話してみたいのよ?
でもあのひとはいい年して素直じゃないのですから
困ったものよね』
[ふふ、と口許を隠すように笑う]
『あの子を、トレイルをお願いしますね』
『カナエさん、わたくしの可愛い娘』
[そう告げて、そっと両頬にキスをするのがお茶会の終わりの定番と化しつつあった。
母以外にも、召使たちの何人かはカナエを気にかけてよく衣類や物資を此方に回してくれた。
それから召使たちの子を中心に、村の子供たちがよく離れを訪れるようになった。
遊んで遊んでとじゃれつく姿に昔、シュロにまとわりついて遊んだ幼い日々を思い出してふと懐かしい気持ちになる。
そんな賑やかな屋敷を抜け出しては、森や小川や草原を散策したり。
図書館から持参した本をたまに二人で読みあったり。
そういう、二人で重ねる穏やかな日々が愛おしくて。
やがて、子を授かるそのときまでそんな日々を過ごしていた]*
(91) kiska 2018/12/08(Sat) 23時半頃