[レティーシャが無事でいたことに大きく胸を撫で下ろしながら、また廊下を歩き続ける。
本当に良かった。ケイトのことは考えないようにして、ひとまずの安心を得る。
それは『今はまだ』というだけの安心かもしれないけれど……。]
今は、まだ?
[自分の思考に驚いて、そのまま口をついて出た。
そうだ、これがもしあの怪談と同じならば、この後も続くはずなのだ。死者を見つけるまでは。
今は無事でもこの後他の死体が出るかもしれない。
それがレティーシャだったら、ハナだったら、……ミッシェルだったら、僕は……。
そこまで考えてやっと、自分もそうなるかもしれないという恐怖が足下から上がってきた。あんな死体に自分がなるのかと。]
……。
[しかし、いっそ自分からが良かったとも思えた。あんなものを見るくらいなら、誰かがここから欠けるくらいなら。]
……でも、とっくに欠けてたかもしれないのか。
[どんな顔をしていいか分からないまま口にしてみれば、虚しさが込み上げてきた。歩みが遅くなる。]
(86) 2013/02/05(Tue) 20時半頃