「ドン・キホーテの著者、ピエール・メナール」。これはピエールという小説家の作品の評論という形を取った小説です。
作中において、ピエール・メナールはドン・キホーテという小説そのものを書き上げました。
無論ただ転写したわけでなく、全く同じ文中に原作と異なる意味合いを持たせ、異なる文中では全く同じ意味合いを持たせ、現代におけるドン・キホーテをイデア的な意味で完全に再構築してみせたのです。
ですから、作中でそれを成し遂げている私が、この現実に干渉した結果、目の前の男と全く同じ言弾を構築でき、同じように扱えて何の不思議があるでしょうか。]
しかし……となると、これは些か先走りましたかね。
私の手には確かに少々大ぶりなものです。
[確かに、相手の得物と同じなら、手馴れた相手の方がうまく得物を扱えるに決まっているのです。しかも、一度顕現させ固定したこの言弾を、他のものに切り替える事はまず不可能なのですから]
(86) 2018/10/12(Fri) 22時半頃