[晴れた空の下で、喧噪の間をぬって広がる声は。
ゆめまぼろしのような、自由の体現のようでさえ、あった。
2人の歌声は、決して大きなものではない。
それでも確かに、耳にした人々を魅了する。
それは藤乃とて、同じこと。
ゆきの手を握ったままに、ほう、と聞き惚れて。
けれど、ユウガオが人々へ笑いかけるのが見えた時>>63。
自分が見られていることを、何を求められているのかをよく知っている表情が、藤乃の意識を周囲へ引き戻した。
──向けられるいくつかの視線のうちのひとつが、この白い子どもを攫っていってしまいはしないかと。
そんな不安が、胸に靄を落として、けれど、止めることなど出来るはずもなく。
ゆきとユウガオ、2人へ向けられる視線に細心の注意を払いながら、無意識にゆきの手を少しだけ強く握る。
世界の仕組みに馴染みきれないおとなは、今日も何処か不自由だ。*]
(83) 2015/09/15(Tue) 21時半頃