じつは、この村にはいわくがあって…。あ、これ僕が言ったって、地元の人にはナイショね。
むかしむかし、戦争の前の話です。
川辺の廃屋は旅人が立ち寄る宿屋で、町になる場所はまだ教会もない草原でした。峠のあたりは狼が出るので、旅人の行方不明がしばしば。村の領主様はべつの貴族で、当時の領主は悪魔に魂を売っていた…、誰ってほら、名前を言ってはいけないあの貴族。破門されたやつ。…そんな時代の話です。
町と教会ができて、今はずいぶんよくなったんだよ、なんてこのへんの人はいうんですけどね、まあ…、自分で確かめたくはねっす。
それでね、当時この村に、小さな男の子が住んでいました。
やんちゃ盛りの年頃で、もののはずみで罪を犯しました。けれど、懺悔もせずに、死んじまったのだそうです。
そういうことがあったのが、その宿屋でした。男の子は罪を濯ぐまで、天国に入れません。それで、ずっと今も、現世と幽世の間をさまよいつづけているのです。…って。
(80) 7korobi 2018/08/08(Wed) 04時頃