[少女はまだ知らない、火の蠍が身を焼く炎のこと。
でも、せんせいの燃える指があたしを焼いてしまうと知ったって、それだって構わないの。
獣のしらない少女のよろこび。灰となって蠍の身を燻し、一緒にいらられるのならおなじこと。
ねえ、旅立ったら、しらないせんせいのこと、たくさん教えてね。
契りの日は既に来て、旅立たなくちゃいけない。
けれど、まだ少し、ほんの少しのたくさんのこと、やらなくちゃいけことがたくさんあった]
ねえ、ニコラスせんせい。
少しだけ、待っていて。あたしね、まだ、しなくちゃいけないことがあるの。
[旅支度のおそい少女は、ぱたぱたと忙しなく動き回ることになる。
足の悪いせんせいに無理をさせてしまったかもしれないから、座れるところまでは二人で歩いて行ったけれど。
小脇に抱えたままのサンドイッチと、黄色の刺繍のハンカチ。
準備のわるいあたしは、何もプレゼントできないかもしれないけれど。
みんなとの糸を手繰るため、駆け出した。**]
(80) 2016/10/13(Thu) 19時半頃