[軒先から、ぽつぽつと人の行き交う広場を眺める。
その中に加わる気にはどうしてもなれなくて、だけれどこんな不景気な顔をぶら下げて、店先に立っている訳にもいかない。
――ふう、と溜息をひとつ。
汗ばむ肌の上から手袋を押さえて立ち去ろうとした時、ぺたりぺたり、と。
からりと晴れた空気に不釣り合いな音>>63が聞こえれば、自然とそちらへ視線を流した。]
…………、
何処の、お嬢さんだったかな。
[周囲の奇異の視線を物ともしない涼しい顔には、確か見覚えがあった、はず。
風に煽られて靡くブロンドの髪を、それは不躾にじい、と眺めて。
合点がいけばようやく、ああ、とひとり頷いた。
――だいぶ前のある出来事で、一躍有名人――と言って良いものかは怪しいけれど――になった彼女の事は、自分でも知っている。
家を出たかったなら、放っておいてあげれば良いじゃあないか、と。
当時抱いた感慨はそんなもので、騒ぐ大人達に混じることもしなかった。]
(80) 2015/04/06(Mon) 22時頃