[顔を見ている以上、何かを喋ったのは理解できた。
しかし、何を言っているのかは理解ができなかった。
正確には、その音が自らの耳に届かず、脳が判断をしなかった。]
(人ひとり生き返らせたにしては代償が軽過ぎると思ったけど…。)
[そこでようやく自分が何を犠牲にしていたのか理解する。
味覚、痛覚、そして――聴覚。これで全部だろうか?
意外と自分で声を出しているつもりでも声が出ていないなんて事はないだろうな?
そんな事になったら確実に彼の蘇生の代償だと気付かれる。
自分で決めて、自分で為したこと。
その結果は他の誰にも責められるつもりもなければ、誰かが背負う必要もない事。
だから……]
えっとですね…。
[耳の中に指を抜き差しして、その耳を下に向けてトントンという仕草をする。]
すみません、船に乗るとどうも耳がキーンとしてしまって。
耳抜きをしないとよく言葉が聞こえないんです。
(78) りおん 2015/05/04(Mon) 22時頃