[けして十分とは言えない身長だが不自由さは感じていなかった。かつて故郷の街で共に過ごした彼女と同じ視線であったのは、好ましく痛みを残す思い出だ。
しかし今は、――短くない時間を過ごしてきた彼を見上げる時は、控えめな舌打ちと共に、もう少し、とも思う]
心細いわけ、ないだろ
[唇を尖らせるような、不満げな声音の裏では、それは本当だろうと納得している。それは、知っているからだ。
目の前の、にやついた笑みが似合う男にも、サイラス自身と変わらない、寂しさを知る人間であることを]
向こう、見てくる
[皿の並ぶテーブルのその向こう。薄暗くも、明るくも見える不思議な夜の色を持つ辺りを、遠目にしながら歩みを進めれば、背後で男に話しかける声がする。
人と話すのは苦手だった。それは、仕事の上でもあまり変わらない。
背中を向けた今は、常よりも苦い感情が露わになる]
(75) 2017/05/02(Tue) 23時頃