―201X年・続体育祭の思い出―
[正直に言えば螢一のやる気は果てしなく低かったのだ。
足は早いが結局の所根っからの文化系なので。
それでも真面目に頑張ってみようと、そう思ったのは――麻倉のひたむきな横顔を間近で見ていたからだと思う。
斜に構えるのが馬鹿馬鹿しくなる彼の一面に、縛られた筈の両足が心地よく動く感覚に、知らずにいた楽しみを見出したのだ。
ゴールしたその瞬間に掛けられた声に応えて片手を打合せた、あの清々しく軽い痛みは螢一の中で今も鮮烈に残っている思い出だった]
お前の期待を裏切ったりしないよ、安心して任せろ。
[げに恐ろしきは高揚感。
二つ返事で引き受けたプリンハンターの報酬は、まあそれなりに納得の行くものではあったし、何より螢一は理不尽さを感じてはいない。
傍目からそれがどう映るのかはわからないけれど。
――美術準備室備え付けの小型冷蔵庫の存在に、果たして螢一が気付くか否か。
プリンの命運は記憶力にかかっていた*]
(75) 2015/03/29(Sun) 03時半頃