[そうしていれば、坊主は少しは落ち着いてくれたろうか。道行く人は、俺が泣かせたとそんな目でこっちを見るだろうから、それにもまたうんざりしつつ。
ある程度坊主が落ち着けば、またふと身体を離そうと。その際に、涙で濡れた顔を手袋を嵌めた指で、乱暴に拭うくらいはしてやったろうが。]
土が付いただろう、百合を変えてやる。
今度は籠を落とすなよ。……腕を上げろ、坊主。
[再度、坊主の前で籠を揺らし。大人しく片腕を上げたなら、籠の持ち手を腕と鎖に通して坊主の肩に掛けてやる。
その際に、花粉が落ちて汚れた百合は籠から引き抜き。百合を抱えながら煙草を一本口へと咥え、火を付けたのなら百合の代わりとばかりに片腕を差し出した。]
ほれ、行くぞ。……もう泣かんでくれよ。
これ以上、変な目で見られるのは御免だ。
[差し出した腕を軽く揺らし、鎖を指に引っ掛けて。百合を片手にまた来た道を戻ろうと、進みだす。
もっとも、坊主が進もうとしなければ。出した足を止めて、振り返りはしただろうが。]
(73) 2015/04/10(Fri) 12時頃