[涼しげな波の音と共に海から吹いてくるゆるやかな熱風の中。
会釈をし返してくれた仕草と表情は、少々胡散臭いくらい堂々として穏やかで。>>54
これでパイプと鹿撃ち帽があれば完璧ではないかとますます思わせ、一瞬本の中に迷い込んだような現実味のない感覚に陥ったのは、きっと暑さのせいだ。>>55
こちらが男を見ているのと同じように。
見られている視線にも気づいたが嫌な感じはしない。
道が合ってることにほっと息をつき、もう一度軽く頭を下げようとして。]
ありがとうございます。
それじゃあ僕はこれで…… え?
[徐に詰められた距離に呆気にとられていれば、空いていた方の手の中に収まったペットボトル。
独特な煙の残り香に振り返った時には、男は海の方向へ歩き出した後。]
あ、はい。あの、よい休日を!
[慌てて鸚鵡返しにもらった言葉を繰り返すと、応えるように振られた片手に。
突っ立ったまま僕は、汗ばんだ背中を見送った。]
(72) 2017/07/05(Wed) 22時頃