86 忘却の海


【人】 放蕩者 ホレーショー

[ジェフが去った後も、暫く海を眺めていた。
 ずっと見つめ続けていると、空との境目が分からなくなるほどに青く澄んだ海に、眩しげに目を細める。]

 ───さて。

 ハナさんの釣果に期待しつつ、わたしも帰るとしましょうか。

[今からもう8年ほど前、地雷に右足の腱と右手小指と薬指を奪われて、軍を去ることになった際、慰労金を支払うかわりに、この村の、あってもなくてもいいような灯台の番を任された。
 そして何故か、おまけに娘をひとり付けられた。
 当時の上官曰く「手足の不自由なお前の為」だそうだが、どう考えても、戦災孤児を押しつけてきただけだろう。
 しかし、妻も子もなく、この身体では今後出来る見込みもなく。ひとりで寂しく、名ばかりの仕事をするよりは……と、そして慰労金の若干の上乗せもあり、その少女───ハンナを、引き取ることにした。

 今ではすっかり「お父さん」の呼び名にも慣れたが、当時は、少しばかりぎくしゃくもあった**]

(71) 2013/06/14(Fri) 01時半頃

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