[胸元に仕舞いこんだ鏡が、命を蝕んでいることは知らない。
ただ、僅かでも可能性を残すに尽くす。
他の誰成らぬ、自身の悲願の為。]
―――…おや、不思議なことを言いますな。
我々にとって、鏡を打ち砕くは手段であり、生還は目的で御座いますが、“あの方”にとっては生還は餌ですよ。
如何するか、は分かりませぬが、如何なるか。は想像が。
―――――きっと、喜ぶのではありませんかね。
[自身が信仰する神の無邪気さをさらりと口に乗せ、相槌を打つ。
彼の思考は理解出来たが、それは自身が口出すに在らず。
されど、誼の欠片を味わうように口髭を密やかに揺らした。>>64]
私に万一があれば、姫様を。
と、此処は頼むところでしょうが、そんな無責任も申しませぬ。
―――…“彼”には、言い忘れたことも、聞き忘れたことも多く御座いますが、貴方の代にまで負わせようとは思いませぬよ。
……ただ、そうですなぁ。
(70) 2014/07/15(Tue) 23時半頃