──これは夢?──
[「千景」
優しく頭を撫でる手と、安心する声に目を開く。目を細めて笑う青年に甘えるように額を擦りつけてみた。微かな笑い声が頭上から降ってくる。暖かい、いつもと何ら変わらぬ彼との戯れ。彼がどこにも行かないように服の裾を掴みながら、問いかける。
ずっと一緒だよね。俺を置いてどこかに行かないでね、と。]
[しかし…の言葉に困ったような表情を見せると、彼はごめんと謝った。
謝らないで、その言葉は嫌いだ。やんわりと優しく相手を拒否する否定の言葉。謝られるのは嫌いなんだ。
行かないで。そう言って、彼に縋ろうとして、自分の全身にぬるっとした物伝っているのがわかった。
むせ返るような、鉄の匂い。
「最後まで一緒にいてやれなくて、ごめんね」
そう言って目の前でぱっと消えてしまった彼の代わりにあるのは、雪に埋もれたマネキン。…の全身は、いつの間にか彼の血で真っ赤に染まっていた。ごめん、もう一度だけ、彼の声が耳元に聞こえる。
そこで…は自分の悲鳴と一緒に現実の世界へと引き戻される。
消毒液の香り。ここは、保健室だろうか]
(69) 2014/04/14(Mon) 21時頃