[>>59日常を思わせる言葉を出して彼女に呼び掛ける老執事と、
それに応じる巫女姫の間には確かな信頼関係が結ばれている事が見て取れた。
軍の人間とは研究を通してしか関わりを持つ心算はなかった。この非常事態で忘れられていても可笑しくはない。
――数年前、少しでもクラリッサの開発を遅らせようと抗っていた男に、
上級大将は自分の一族の功績や、王国に対する呪詛めいた言葉を紡いで、あの国は滅ぼすべきなのだと、早期に完成させる事を迫った。
妄執を孕んだそれらは男の心には響かなかったが、ここで己が手を引けば、いずれは完成する彼女がどうなるかを想像すると薄ら寒く。
クラリッサが完成した以上、彼女が無事に残るならば男の存在価値はないに等しい。
それだけは絶対に避けなければ、と思っているが。]
――…。
[耳が拾った彼の呟き声には、男は苦み混じる笑みで返す。
クラリッサを作る事は男の長年の夢だった。
後悔はしていないが、よりよい道を選ぶ道があったなら、とも思うのだ。]
(69) 2014/07/11(Fri) 03時頃