── オリュース市電・車両基地近く ──[──そして、夕刻。空はまだ明るいが、マーケットや屋台は既に盛況を迎えていた。喧噪からやや離れた港の倉庫街。普段なら人の気配なぞほんとんどないこの辺りにも、ぽつ、ぽつと人の姿がある。スラックスの尻ポケットには昨日同様、長財布。変わったことといえば、中身が紙幣サイズの白紙の束から、自社が新聞に載せている求人広告や、以前、何かを切欠に貰った便利屋の名刺のコピー。金の入っていない財布を掴まされた上に、説教じみた中身を手にした相手がどう思うかなぞ知ったことではない。そもそも、獲物として狙われるかも定かでないし。]
(68) 2019/07/28(Sun) 09時半頃