――夕刻/『森の真珠』主人の私室近くの廊下――
[使いが予定より遅くなったのは、帰路に降ってきた雨のせいだけではなかったらしい。
『White night』の軒先やポーチに飾ってあるランプ類を、ハリケーンランタンだけを残して、姉が母屋に入れるのを手伝ってくれたという。外に飾ってあるのは高価なものではないのだが…]
「まだそれほど風は強くなかったんだよ。
でも、お姉さんは弟が丹精込めて作ったものを傷つけてはいけないと言って片付け始めていたから。良いお姉さんだね」
そうだったんですか。ありがとうございます。
それであの…姉の様子はどうでしたか?
「何度か見かけたことはあるけど、今日はいつもより元気そうだったね。
そうそう、このまま天候が崩れるようなら、君は無理して帰宅しないで泊まらせてもらったらいいなんて言ってたよ」
[他の仕事に戻る使いに、ヴェスは深く頭を垂れた。もちろん使いへの礼であるが、心の中で姉にも感謝して。
大きな道具箱を開けると、ヴェスは壁付けブラケットの修理を始める。
途中、長い髪が邪魔になり、ズボンのポケットの中の細い革紐を取り出してくくった。
その時、ふと昼間の出来事を想い出し]
(68) 2017/08/13(Sun) 23時半頃