[スリッパのぺたぺたと言う音だけが響く廊下を通り、リビングの扉を開く。既に夕食の準備が進んでいるのだろう。
食事の匂いに空腹を覚える。
最も、本当の意味で満たされる事は滅多に無いのだけれど。
昔の元服を迎える年頃から飢えはじめた優にとって、食事はどこか空虚だ。
不味いわけではない。美味しいとも思う。
だけど、どうしても満たされない。
気休めに人を抱いたり、秘密のルートでおこぼれを貰うことで漸くわずかな安寧を得る。
もし、契約が成されれば。
血や肉の入手は、楽になるのだろう。
けれど、これからの命を死者とはんぶんこすることになる。
人生80だとして、約50年の半分。暫定25年。
100まで生きられたとして35年。
血肉を喰らわなければ、10年にも満たないだろう。
たったの10、20年そこらを生き足掻いているわけではない。
ただ、姉の様に血を拒み続けて。
…狂った上でなお、誰かを傷つけたくないだけだ。]
(68) 2015/01/17(Sat) 03時半頃