―5月4日早朝 薬屋「三元道士」店内―
[どうしても重くなる腕に邪魔されて、いつもより時間をかけて顔を作る。暗くなる表情を見つめてから、随分昔に散々練習した微笑を作る。品良く、艶を滲ませた、誘う為の微笑み。如何にか物にした筈の其れは他人の物のような違和感を伴う。じわりと染み出す虚しさに負けて、鏡をそれ以上見る事が出来なかった。
店の扉に歩み寄れば、予想通り投票用紙が差し込まれている。薄っぺらいその一枚で誰かの命を奪える――人の命まで軽くなるような心地に吐き気がした。
と、カサリと足元で微かな音。訝しげに視線を落とすともう一枚の紙。どうやら投票用紙に押し出されて床に落ちた物らしい。町会便りとも趣が違う其れに、咄嗟に想像したのは無力な薬師を呪う言葉だろうか、と。ほんの少しの心構えと共に、文字が書いてあるらしい裏面を見る為に紙面を引っ繰り返す]
(67) 2013/07/26(Fri) 01時半頃