― 学術区 ―
[猫は歩く。
時折欠伸をもらしながら――これはさきほど施された処置のせいかもしれない。ヒト風にいえば"疲れている"――歩いて、階段を下りて、やがて見つけた影に、手の代わりに尻尾を揺らして挨拶をした]
やぁ、フィリップ
……いやすまない。
何処かへ行くなら引きとめはしないよ
[何かを決めたような、そんな表情に見えて、彼の周りをくるりと歩くと、そう告げた]
そうそう、卒業前に言おうと思っていたことがあってね
―――…俺を煮干で釣るのはやめてくれないか、ってね
[猫ではない、と言い張っても、この個体の五感やらは正しく猫に酷似している。煮干の香りとか、その味を思い出しての唾液とか、諸々の反応がアーサーには都合がよろしくなかった。
きっぱり、伝えたところで、彼がそのまま何処かへ向かうなら見送り、暫くは木々生い茂る影で、欠伸がおさまるまでじっとしていることにした]
(67) 2015/03/04(Wed) 22時半頃