[触れそうな距離で囁かれる、あまいこえ。
弟がそんな声を出すところなんて見たことがないのに、何故か実感は深まった。
髪の質感も、パーカーから漂う僅かな体臭も、あの時のまま。これは、リツだ。弟だ。
――こいつは、今、なんて?]
っ……待、っ……ん、ぁ、ふぁ、まっ……――!!
[引き止めようとしても、全身を駆け巡る性感がそれを許してはくれない。
口を開けば嬌声が溢れ、おそらくそれは直円へと伝わるのだろう。震えようとする喉を、唇を噛んで捻じ伏せた。]
(分かんねぇ、わけわかんねぇ……ッ、けど、これ以上あの野郎の良い様にされるのだけは、嫌だ、絶対に嫌だ……!!)
[遊戯はなし崩しのように終わったが、それでも声や反応は可能な限り堪えていた。おかしくなったかのような気分になってしまうし、それで敵を喜ばせてしまうなら、尚のこと。
あの甘い声が耳にこびりついて離れない。あれはきっとリツだ。なぜ五年前のままの姿なのか。彼に何があったのか――。
思考は粘膜のようにぐちょぐちょと、かき回されていった。*]
(66) 2016/06/04(Sat) 18時頃