〔浮穴沫媛たちを高度知性体であると──すなわち、十分に対話可能な存在であると周囲に認めさせるのは、困難を極めた。
いや、今現在を持っても、認めさせたとは言えない。
何しろ、彼女らの主なコミュニケーション手段は液体を伝う振動と、おそらくは嗅覚に似た何か、それに未だ解明されない感覚器官だ。翻訳作業も未だ完全とは言えず、多くの面で難航している。言語学の研究者としても、翻訳機技師としても、納得がいく出来ではない。
──彼女らに知性がある事を否認する人々の感情にも、一定理解する部分はある。態度から、理解する気がない。と判断をされがちではあるが、同種・近似種の思考を推測しないわけではない。
今まで道具のように扱っていた「もの」に、知性があり人格があるとなったとき、自らの信念との齟齬が起きることはあるだろう。
己が他知性体を奴隷として使用していた、などと後から気がつかされるのは、清廉でありたい者ほど苦痛に感じるはずだ。〕
(65) 2020/08/25(Tue) 23時半頃