―5月5日早朝、チアキ宅前―
>>57
……今聞いてんだろ
[軽口のような言葉も今はどこか苦く、抱き込んだ頭へと鼻先を埋めて囁いた。
懐かしい、匂いがする、のに――]
……いいんだ、チアキ、大丈夫、大丈夫だから
[つい数日前に幾度も囁かれた言葉と、宥めるように撫でる掌を思い返した。鼻の奥がツンと痛くなる。自分にはチアキの何が分かっていたというのだろう。壊れてさえなお、縋る手を振り払わずに、ただ傍にいると――味方だと言ってくれた。
それなのに一瞬の陰りに気付かないふりを、慰められたくて見ないふりをした。
――変わったチアキを見るのが、怖かった。
大丈夫と、繰り返す声は本当にナユタだけに向けられていたのだろうか。
怯えにも似た言葉に胸が締め付けられる。
馬鹿だな、チアキ…嫌いになったらこんな事する訳ないだろうにと――けれど言葉は声にならずに、想いを伝えようと抱く手に力を込めた]
(63) 2013/07/28(Sun) 00時半頃