[それからどれくらい経っただろうか。
ノック音と共にもうすぐ時間だとドアの向こうから告げられれば、男は小さな溜め息と共に了承の意思を示し。
飾り気のない焦げ茶色のネクタイを締め直しながら
部下に会議の開始が近い事を告げて通信を切り、機材を片付け始める。
両手の上に収まる本体に、ゴーグルと一体化したインカムなどの機材―携帯用なので極限まで軽量・小型化されている―は、速やかに小脇に抱えられるサイズの黒い鞄に収められた。
幾重にも電子錠が施され、生体認証機能もあるこの鞄は男にしか開けられない。
もしも何者かに奪われた場合には、遠隔装置で爆破する仕掛けも施されている。
――何せ機材に入っているデータは軍事機密ばかりだ。
それらのデータは常にバックアップが研究所に保管されている上に、概要は男の頭に殆ど全て入っている。
最悪、男が生きてさえいれば復元は可能、とまで言われているのはほぼ事実だ。逆に、男がいなくなった場合に出来なくなる事の方が多い。]
(63) 2014/07/09(Wed) 00時半頃