[彼にも、そんな相手が居るのだろうか。
心を許し、例えばこんな時に隠さず "辛い" と……そう、言えるような相手が居るのだろうか。
ただの一言を残してその場を後にしたのは、若干の気まずさもあったから。
鍵を取る前に同室の――一時的とはいえ、同室となる事の許可を取るべきだったと気付いたのは、1番の鍵を手に再び彼の元へと戻ってからだ。
伸ばされそうになった手>>46は、黒のコートには届く事は無かったようだから。
彼の元に戻るまで、再び襲ってきた緊張に締め付けられる胸に唾を飲み、今度こそ努めて軽い口調で言葉を交わそうと心に決めて。
――けれど実際に向けたのは、逃げ道だらけの気まずげな言葉だけ。
彼の体調の悪さにつけ込んだようなこの行動にじわりと自己嫌悪を覚えつつも、言ってしまったものは仕方がないと彼の返答を待って、いれば。]
(62) 2015/11/20(Fri) 12時半頃