[とあるおうちの無理心中。
酒に酔った父親が、妻とひとりの娘を殺して、自分も死んだ。
そんなニュースは、広く見回せばありふれてはいるものの、流石にご町内を束の間揺るがしたと思う。
やがて、妹の耳にも届いたのだろう。
妹が、そのニュースとあの夜の少女を結びつけるまでに、そうはかからなかった。
ある日、蒼白な顔をした妹が自分の前に立っていた。
その瞳だけが、あの夜と同じ、燃えるような色を灯していた。]
「あたし、謝らないから」
[震える唇に反して、言葉は真っ直ぐに。
何を、と尋ねることすら躊躇われるほどに強い声だった。]
「誰が、……誰が、死んだって、知んない。
お兄に、何もないなら、それでいい」
[睨むように自分の方を見上げながら、言う。
その強さに気圧されて、ただ黙って彼女を見つめていた。
あたしは、と、妹は口を開く。]
(59) 2015/11/07(Sat) 15時頃