[宿に泊まったお客さんみたいにして、廊下を歩く。その短い距離に辺りを見回した青年は、ほんの少し眉を下げて息を落とした。
普段、ここに泊まることはない。「客」として滞在したのは遥か昔、ピスティオが両親と共に初めてこの村にやって来た時以来だ。
両親はいわゆる「流れ者」だったのだろう。…だろう、と今ならば思うけれども、あの頃はまだそんなことは分からなかった。
分かっていることは一つ。
両親は少しの間この村に滞在し、そして何らかの仕事と称してピスティオを留守に置いて村を出て行き、そのまま戻らなかった。孤児となったピスティオがローザス家に引き取られたのは、その後の話だ。]
………………。久しぶり、…っス。
[遠い思い出への挨拶代わりに、指を枉げてコツンと廊下の壁を叩いた。誰に見せる気もない儀式のようなものだった。]
(58) 2018/07/25(Wed) 16時頃