[得体の知れない焦燥感があった。だが、それでもトヨタは立ち止まる。
駅の構内を出口へ向かって歩いていく1組の男と少女。その少女の側にトヨタは見覚えがあった。]
……ひなこちゃん?
[勿論普段なら気にも留めなかっただろう。だが、少女のただならぬ様子と『何かが起こっているのではないか』という根拠のない恐怖感が、普段は絶対にしない行いをトヨタにさせた。
ゆっくりと、彼らの後を尾行する。自分でもその理由はわからない。こんなことをしている場合ではない気がした。だが、それならどうする?
商店街を抜け、街の隙間のような路地をくぐり、2人の背中を追いかけて歩く。
やがて街の裏側とでもいうべき薄汚れたビルの壁が並ぶ場所へ辿り着いて……そこで2人を見失った。]
[目の前には無機質な鉄の扉。
気のせいか、周囲から沢山の視線を感じる気がする。]
(57) 2015/06/08(Mon) 01時半頃