[桑の実の時期が過ぎ、無花果の実が熟れ始める頃のある日……
珍しく早起きした男は何やらがさがさと書棚を漁っていました。
ドリベルがお手伝いしてくれたなら、さして棚は埃塗れではないでしょうが、それでもそのうち家ごとひっくり返しそうな程です。]
………………ないっ。
[男が探しているのは、羊皮紙の束でした。
書き取りの練習にと納屋から取り出してきたはずのものが何処にもありません。
目覚めたドリベルに新しいことを教えてびっくりさせようという試みは早くも挫折の予感がしていて、男はちょっと泣きそうになりました。
ドリベルが騒々しい物音に目を覚ましてしまったならば、書棚の前に蹲る大男が嫌でも目に入るでしょう。
そしてテーブルの上には、珍しく男が早起きして作った胡桃を練り込んだパンのトーストの皿が二枚と……
……少年の椅子の上に置きっぱなしの紙の束が。]**
(57) 2018/06/13(Wed) 17時頃