[教会の帰路を、ゆっくりと歩く。
傍らには見知った付添の気配。町中に戻れば甘い菓子の匂い。愉しげな子供達の声。地下ゆえに制御された温暖な気候。
牧師一人が立ち去ろうと、平和な空気は変わりはしない。
そのことに少し眼を伏せ、左手で下腹部を撫でた。布地の肌触りのよさに、指に力が入る]
あの文といい、急なものですね。
……こういった招集など、それこそあの方にふさわしきものでしょうに。
[早朝読んでもらった手紙の内容を思い出し、息を吐く。
脳裏に浮かぶのは、既に亡き伴侶のこと。弱きも強きも救け、愛し、ただひとりの犠牲も厭うて赦さなかったひとのこと。
若干口が悪かったものの、その熱さゆえのものであると、誰しも苦笑する程度で収めていた]
あの方とは違う卑賤な身には、荷が重すぎる辞令ですが……、
なるべく早く、終わることを願いましょう。
[付添を安心させるように、口元を緩める。
不安や疑問はあれど、混乱を起こすほどではなく。
ただゆっくりと、杖をついて戻っていく。
最小限の持ち物を詰めた鞄は、既に用意していた*]
(57) 2011/04/13(Wed) 23時頃