[そうして、身体に力が馴染むまで、山の中の時間はゆっくり過ぎていくでしょう。
図鑑に載っている動物の名前の読み方から始めて
読めるようになったなら羊皮紙に書いてみましょうか。
もう少し字が読めるようになったなら
家にある他の本を開いてみましょうか。
図鑑以外に、薬の本や料理の本、物語や伝記……
どれも埃を被っていますが、価値ある本はあったでしょうか。
変身の力は、子どもの歯が抜けるようなもの。
身体の小さな違和感が、やがて大きな変化になる。
おまえが小さかった頃は、身体が毛でぼうぼうになっていくのに
酷く怯えて泣いたものだよ、と記憶の中でカッコウが言いました。
説明の苦手な男も、毎日毎日しゃべるようになれば、
少しは口が回るようになった……かもしれません。
勇気を出してかたたたきをお願いする日もあったでしょう。
目まぐるしい日付きの流れの中、変化は随所に顕れます。
しかし一つ相も変わらず、男は必ず夜は熊の姿で山に出かけていくのでした。]
(56) 2018/06/13(Wed) 16時頃