[その男の人の名前が、「館石 素文(たていし もとふみ)」だということを知ったのは、しばらく後の話。
その男の人の正体が、某薬科大学に勤める准教授だということを知ったのは、さらにだいぶ後の話。
偶然通りかかった道で、倒れているあたしを見つけてくれて、介抱してくれたらしい。
あたしにとっては命の恩人で、いろんなことを知ってる“魔法使い”だった。
あたしはその人を「先生」と呼んで慕った。
詳しい事情は知らないけど、その頃の先生は30代でまだ独身、アパートでの一人暮らし。
忙しいけれど余裕のある生活を送っていたらしい。
家族を失って行き場の無くなったあたしは、先生の娘として育てられることになった。
あたしはそれを望んだし、先生もそれを受け入れてくれた。
心の傷は深かったけれど、そこから立ち直るための魔法を教えてくれた。
壊れきったあたしを、ギリギリのところで繋ぎ止めてくれた。
生きるための力と、知恵と、これからの進路もくれた。]
(50) 2015/07/06(Mon) 03時頃